BLOG ブログ

ENTRY

お申し込みはこちら

演劇でちょっぴり人生が変わった人の話

演劇なんぞ始めたら、ちょっぴりどころかだいぶ人生が変わることもあるかもですが、これは、私が演劇講師としてワークショップを始めた頃に出会った人の、忘れられないエピソードです。よかったらどうぞ最後までお付き合いください。

女性だけのワークショップ

その名は、チカちゃん(仮名)

もう20年も前のことなので、フルネームもわからないのですが、仮にチカちゃん、としておきます。

あるとき市から「女性のための演劇ワークショップ」をやってほしいと依頼をされました。平成11年(1999年)に「男女平等参画社会基本法」ができた数年あとのことで、その関連の企画だったようです。

男女平等参画なのに女性限定、というのには訳があって、担当の方曰く、男性がいると気を遣って自由に振る舞えない人もいるかもしれない。女性だけの方が遠慮なく、思い切っていろんな表現ができるのではないか…とのことでした。

私は子どもの頃から、相手が男性だろうと女性だろうと、思ったことはなんでも言ってしまうタイプなので、その時は思い至らなかったのですが、のちに知人の女性から、当たり前のように男性に対して一歩引いたり、譲ったりすることが身に染み付いている、ということに気づいた、という話を聞きました。
そういった方への担当者の配慮だったのかもしれません。

ともあれ、なるほど!それもいいですね、ということで、3〜40代の女性十数名のワークショップがスタートしました。

いつもと違う自分を試してみよう

ワークショップは、たしか週1回の6回シリーズくらいだったか…

演劇のワークショップは関係が深まるのも早いので、すぐにみんな打ち解けて、ティーンエイジャーみたいにお互い「〇〇ちゃん」と呼び合うようになりました。
これは「妻」や「母」または職業役職などの肩書をいっとき外すための装置でもありました。

そして、私は担当の方の思いを受けて、「自分の中に眠っている“もっとこうだったかもしれない自分” を探す」というテーマでワークショップを進めることにしました。

そもそも「自分はこういうヒトだ」と認識している自分って、そう思い込んでいるだけで、実は長い年月かけて地道にコツコツ作り上げてきた結果でもあるんですね。

育った環境や周りとの人間関係、一つ一つの経験が積み重なり「こう考えるのが自然だ」「こう振る舞うのがいいのだ」と学習してきた自分。
それは好んで選択してきたことだけではなくて、そうせざるを得なかった、という部分も多々あるわけです。むしろその方が多いかもしれません。そして同時に「もっとこうだったらいいのになあ」という願望もある。

ほんとはもっといろんな自分があって、今の自分はその中のほんの一部。いつもの「パターン化して型にハマった」自分だけではなく、もっとかっこいい自分とか、もっと可愛い自分とかが、きっと自分の中に眠ってるはずなんです。

自分にひとつ、形容詞をプラスする

そこで、みんなそれぞれ自分に「自分がこうありたい」と思う要素を一つ、形容詞で付け足してみる、というワークをやりました。

例えば「柔和」「華やか」「厳格」など。
そして、それを自分に取り入れるために何か一つ「目に見えないアイテム」をイメージして身にまとう。
「華やか」ならもしかすると、胸元の開いたドレスかもしれませんし、縦ロールの髪かもしれません。「柔和」だったら、お香の香りや柔らかいスカーフかもしれない。自分のイマジネーションを助けてくれるものだったらなんでもいいのです。
そして、それを身につけたまま動いたり、話したりします。

こんなワークを何回かに分けて、いろんな自分を試しました。

チカちゃんが、最後の試演会のために選んだ言葉は「知的」でした。もともと彼女は細い縁のメガネをかけていて、服装もシャープで、どちらかといえば知的な印象だったので、みんなちょっとびっくりしました。
でもチカちゃんは、どうしてもそれがいい、と言って続けました。

試演会では、数名で即興の場面を演じてもらいました。
チカちゃんは、母親の介護について話し合う、3人姉妹の真ん中の役で、イニシアチブを取り、ビシバシと議論を進めていきました。見た目シャープな印象なので、周りからはそんなに違和感がないのですが、本人としてはとても大きな冒険だったようなのです。

チカちゃんが望んでいたこと

話は続きまして、1ヶ月後。

こういうワークショップでは珍しいのですが、担当の方の計らいで「同窓会」がありました。いい雰囲気の居酒屋に集まったみんなは、相変わらず女子高生のようにキャイキャイとはしゃいでいました。

そんな中、チカちゃんが「聞いて聞いて〜!」と話し始めました。

なんでも彼女は県外出身で、親戚づきあいやら行事ごとやらが非常〜にたいへんだと言われている「長男嫁」として嫁いできてから長年ダンナさんと一度もケンカもせず、嫁とのしての役目を果たしてきたんだそうです。

それが、ワークショップ後に、初めてダンナさんと大ゲンカをしたというのです。
チカちゃん曰く、これまでは言いたいことは全部のみこんできた。でもこの時は、自分が思っていることを、思い切って洗いざらい伝えることができた。ワークショップで練習できたからだと思うんですよね。とのこと。

そうだったのか〜…しーんとして聴きいる一同。

でね、それだけじゃないの…とチカちゃん。

「朝、目が覚めたらね、夫が枕元にこう、正座してて…神妙な顔で、『ごめんね、ボクは君のこと何にも分かってなかったね』って言うのよ!」

「へぇ〜!」「ほぉぉ」

「でね……………何年かぶりに、CHU(*^▽^*)♡したのぉ〜〜〜!!」

「キャ〜〜〜〜☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆!!!!!」

店内に響き渡る、かつての女子高生たちの歓声。

自分の殻とは

「自分の殻」って、その殻が、人生の中でなんとなく作られてきたものであれ、何かイタい思いをしてやむを得ず作り上げたものであれ、自分がいつもの自分であることを守ってくれるものですよね。
今の状態がまずまずよかったら、それをキープしようとするのはごく自然なことです。

でもいつか、そんな自分に飽き足らなくなって、変わりたい、と思う時が来たりするわけです。

チカちゃんは、最初からダンナさんとの関係をどうにかしたいと思ってワークショップに来た、というわけではかもしれない。
いろんな自分を試しているうちに、自分の中の思いや欲求に気づいた…のかもしれない。
ともあれ、思い切って行動に移してみた、と。

この出来事は私にとってはとても大きくて、こんなドラマティックな瞬間に立ち会えるなんて、演劇講師ってなんて贅沢な仕事なんだろうと思いました。どんな大劇場のS席に座っても観られない!

役者さんとしていろんな作品に出て活躍するのもすてきですが、演劇的体験を通して「なりたい自分」になっていく人たちもとてもすてきです。そんなキラッキラした人たちを見るのが、私は大好きです。

チカちゃん、どうしてるかな〜。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

投稿者プロフィール

渡辺 奈穂
渡辺 奈穂
1989年より演劇を始め、俳優・演出を経て後進の育成に携わる。指導開始後ほどなくして、演劇体験がプロを目指す者だけでなく受講者の生活・人生を大きく活性化させることを痛感。2020年にオンラインレッスンをスタートし、子どもから大人まで、全国の幅広い年代の受講者へレッスンを届けている。

CONTACT お問い合わせ

オンライン・オフラインでレッスン開催中。
何でもお気軽にお問い合わせください!