オンラインでインプロのレッスンを始めてから、全国津々浦々の、オンラインでなければお会いすることがなかった皆様とご一緒することが増えて嬉しい限りです。また、インプロという言葉が地味〜に浸透しているのだなぁと実感します。
そんな中、ご受講の動機を伺うと「あなたはインプロをするとイイよと勧められたんですけど、どんなものかは正直よく知らずに参加しました」とおっしゃったり、他にも「やってみたらおもしろかったのでインプロを人に勧めたいけど、なんと説明したらいいでしょうかね」とお尋ねになる方がよくいます。
「なんだかわからないからとにかく受けてみる」なんて、それ自体がとってもインプロ的!
ナイスチャレンジです〜。
ま、とにかくそんな方々に若干でも参考にしていただければ、と思い「インプロがなぜイイと言われるか(どんな効果があるか)」をちょっとつっこんで書いてみました。
インプロとは、そもそも何をするもの?
即興とは「あらかじめ準備することなく、その場での“興に乗じて”、型にとらわれず自由につくりあげて表現する(おもに)アートの形態。
即興演奏、とか、即興詩人、なんて言葉はもしかしたら聞いたことあるかもしれませんね。
ちなみに「興に乗じる」を辞書で引くと、「おもしろさにまかせて物事を行なう。おもしろさの勢いにまかせて調子づく」とありました(精選版 日本国語大辞典)。
「調子づく」ってところが、イイですね〜。この説明、私好きです。
他にも即興で踊る、とか、即興アートとかいろいろありますが、カタカナで「インプロ」と表記する場合、日本ではたいてい「即興演劇」を指します。
つまり、台本がない状態で、その場で(稽古場で、または舞台上のお客様の前で)即興でお芝居を演じていきます。
で、お芝居の場合、ひとりではなくたいてい複数の人数で行いますので、即興でお芝居をしようとすると、
「おもしろさの勢いにまかせる」ことはもちろんですが、ストーリーがどう進んでいくのかわからない状態でお芝居をスタートするので、他にもこんなことが必要になります。
ストーリー(いつ、どこで、だれが、何をして、どんなことが起こって、どう終わるか)を共有するために
・相手が何をしようとしているかよく見る、あらゆる感覚を駆使して感じとる
・自分が何をしようとしているか、あらゆる手段で相手役や観客に伝える
・お互いのやろうとしていることを擦り合わせる(協力する、カバーし合う)
これらを、「おもしろさの勢いにまかせる」のと同時並行で行うのでだいぶ忙しいですし、いちいち立ち止まって「よく考えたり」「吟味」「検討」していると、なかなか先に進みません。
そこで
・直感的に決断し、大胆に実行する
・大胆に実行した結果、失敗したり予想通りに行かなかった時なども、お互いにカバーし合う
なんてことも必要になります。
これらのことについて、もう少し詳しく書いてみます。
1)インプロをすることと、その効果〜個人編
ここでは、おもに演劇人ではなく、自己研鑽のためにインプロをする方の目線で考えてみたいと思います。
1 自然体の自分を取り戻す/自己肯定感を高める
私たちは、社会生活のほとんどの場面ではたいてい、おもしろさの勢いに任せて行動する…というわけにはいかず、とってもとっても気をつけながら生きているからです。
ごく幼い頃は、たいていの人はのびのびと手足を動かして音楽に身を任せたり、感じたことをストレートに表現したりするものですが、成長するにつれてだんだんと、社会に適応するために行動の制限が増えてくるのと同時に、周りの目(=評価)を気にして自分の言動を調整するようになっていきます。
ひとによって程度の差はありますが、表現活動として自由にふるまうためには、まずこの「人の評価を気にする」というストッパーを外す必要があります。
インプロをトレーニングする場では、参加者が萎縮することなく表現できるよう、講師が雰囲気を作りをしたり、参加者同士がお互いの違いを面白がったり認め合ったりできるようなエクササイズを提供します。
参加者はだんだんとリラックスして、自然体な自分と一緒に自己肯定感も取り戻していきます。
2 視野が広がる/他人にも自分にも寛容になる
同じゲームやエクササイズでも、人が変わり、時が変われば起きることも体験することも変わります。
自分がごく普通だと思って発した言葉やアイディアが、相手にとってはユニークだったり、びっくりされたりします。
また、相手もしばしば、自分の想像を超えることを言ったりやったりします。
最初は戸惑う人もいるかもしれませんが、慣れてくるとそれはとても面白かったり、スリリングだったりします。
参加者にとって、人はみんな感じ方が違うこと、「自分の普通」以外にこんなにもいろんな視点があること、いつも予定通り同じことが起こるとは限らないこと、を知るのは大きな収穫になります。
また、いろんなアイディアがあるのはいいとしても、のちのち一緒に「ひとつの」ストーリーを作っていく時には、その都度なにかしらひとつのアイディア(方向性)を選ぶことになります。
基本的に先に出たもの順に、お互いにアイディアをキャッチーボールしながら進めていくのですが、この状態を「イエスアンド」と呼びます。
「議論してより良い方を選ぶ」のではなく、「起きたことを受け入れる、またはうまいこと利用していく」という姿勢です。
そのためには、何でもかんでもやたら批判的な目で物事を見るより、「あら、こんないいものがあった」というようなものの見方ができる姿勢でいる方が、なにかとうまくいくことが多いです。
いろんな人がいて、いろんな考えがあって、いろんな選択があることを知っておくのは、のちの共同作業の際、思いもかけない事態が起きた時に、臨機応変に対応できることにつながります。
3 その瞬間に集中し続け、観察する
ひとは大抵、日常生活の中では周りをなんとなく見たり聞いたりしていて、そこそこの情報を取りこぼしていますが、とくに不都合もなければそれで済みます。
たまに「言ったじゃない!」「聞いてないよ!」なんてやりとりがあったり、「しまった、気づかなかった」なんてことはあるかもしれません。
一方、即興のお芝居では、ちょっとした情報を取りこぼしながら場面を進めたことで、話が噛み合わなくなって困ったり、あとからお互いに勘違いしていたことが発覚したりします。
逆に、ちょっとしたひとこと、ちょっとした仕草を逃さず、しっかりキャッチしてうまく使っていくと、とっても面白いストーリーに仕上がったりします。
(ほんとに台本がないんですか?と聞かれることもあります。)
インプロのトレーニングを続けることで、その瞬間瞬間に集中し続けたり(まるで禅の修行のように!)、相手のちょっとした変化に気づけるようになったりします。
4 表現力やコミュ力を鍛える
また、即興なので、スタートする時にはちょっとしたこと(場所とか、タイトルとか)しか決めませんし、時々ほんとに何にも決めずに始めることもあります。
ときどき「ナレーション」を入れてちょっと補足説明することもできますが、何から何まで言葉で説明するわけではありません。
なので、自分が何の役で、どういうつもりで相手に話しかけているかを、言葉のチョイスだったり、声色や体の動きで表現します。
(相手役のお婆さんだったり、ヤンキーだったり、偉そうなおじさんだったり、迷子のこどもだったり。)
そして、お互いに言語的/非言語的な情報を受け入れ合い、付け足しあって、自分達が今どんなシチュエーションにあるのかを作っていき、そこからストーリーがスタートします。
時にはここがどこで、自分達が誰で、何について話をしているのかがはっきりしなかったり、確信が持てないこともあります。
そんなときに、うやむやにしたまま進めずに、お互い口に出したりして確認することも大切です。
5 直感力と決断、行動、サポート
なので、どういうセリフを返すか、どんな選択をするか、瞬時に決断したり、選択したりすることになります。
「台本を書く」という作業であれば、あれこれ悩んだり、推敲したりできますが、舞台の上ではそういうわけにいきません。
また、すでに始まっている場面に後から入る時など「どういうふうに加わろうか〜」とあれこれ悩んでいると、「こうしよう」と決めた時にはすでに場面が進んでしまっていて、自分のアイディアが噛み合わないものになっているかもしれません。
なので、「よし!」と直感的に決断し、リスクはありますが、思い切って大胆に、即行動に移していきます。
もちろん最初は、なかなか一歩が踏み出せなかったり、踏み出した結果「あ、しまった」ということもあります。
が「あ、しまった!」を逆に周りの人が利用して、違う展開に持っていってくれることもありますし、そのせいで返って面白くなることもあります。
こういった経験を繰り返すことで、臨機応変に決断し行動すること、またピンチをチャンスに変える力がついてきます。
2)インプロをすることと、その効果〜団体編
インプロを演じる時にはそのプレイヤー(役者)たちが「チーム」ですが、たとえば、職場、クラス、サークルなどに置き換えることができるでしょう。
1 心理的安全性の高いチームになる
1)-1や2でお伝えしたように、インプロのエクササイズは、お互いの気持ちやアイディア、感じ方を尊重しあったり、面白がったり、価値のあるものとして受け取るというものが多いので、こういった習慣(体質)がチームに根付くことで「心理的安全性」の高い集団になるでしょう。
またインプロのエクササイズの中には、敢えて「自分がNOと感じた時に、率直に表明する」というものもあります。
もし、お互いのアイディアを受け入れ合う「イエスアンド」が「絶対ルール」と化してしまうと、それはとても窮屈なものになります。
かえってお互いが何を本当に思っているか、わからなくなるかもしれません。
そういう状態で演じるインプロの窮屈さは、きっとお客様にも伝わります。
なので、相手が何をどう感じているのかを探ったり、率直にフィードバックしたりする時間も、インプロのトレーニングではとても大切です。
2 自発性と協調性が生まれる
いってみれば、ひとりひとりが、役者、演出家、脚本家の役割をすべてちょっとずつ担いながら、お互いに自立した存在です。
なので瞬間瞬間、自分が「最善だ」と思ったことを思い切ってやります。
もちろん、お互いにいつも意見や感覚が一致するわけではないので、「そうくるか!?」ということもしょっちゅうあるのですが、そうなったときは時に自分のアイディアを潔く捨てて、全力で相手のアイディアに付き合ったりします。
現実世界のプロジェクトだと、あれこれ利害があったりするかもしれませんが、インプロは「フィクションの中で遊ぶ」ものなので、現実的な利害は別で「ともに楽しんでゴールを目指す」ことに没頭できます。
この達成感や一体感は、現実世界にもきっと影響を及ぼすと思います。
また、お互いをしっかり感じ取ったり、気がついたりすることで、作業の質や効率もよくなることでしょう。
3 ピンチをチャンスに転じるチームワーク
インプロは、所詮「フィクション」「遊び」であるにもかかわらず、やはり最初はみんな、尻込みしたり躊躇したりします。
特に舞台の上では、練習の時と違ってホントにホントの「一回こっきり」ですし(練習の時は、なんなら何度でもやり直せます)、お客様もいるのでかなり緊張が高くなります。
長らくやっていると、その中でもリラックスしてできるようになるのですが、最初は特に緊張します。
そんな舞台では特に、チームワークが試されます。
思い切って相手に身を委ねる勇気、何かあったら拾ってもらえるという信頼感、そして自分が相手を支えるぞという覚悟。
ハプニングが起こって「どうしよう!?」となった瞬間、ひとりではない、というのはとても心強い事。
そして、みんなが遠慮なく、自分なりの発想をし、提案をぶつけ合える関係だからこそ、いざというときに「じゃあこうしよう!」という対処法が見つかりやすくなります。
インプロは、ワークショップとしてゆったりわいわいやるのも楽しいですが、舞台ではワークショップでは得られない体験がたくさんできるのでおすすめです。
インプロをやってみたいなと思った時は
各グループや講師によって、スタイルやカラーがそれぞれ違います。
参加方法も、1日だけの入門/体験ワークショップや、何回かに分けて段階的に学んでいくようなクラス、演劇に触れたことがない方でも気軽に参加できるものや、舞台人向け、教育者向けなどいろいろあると思いますので、ぜひ問い合わせてみてください。
地方都市ですとインプロ団体があるところ、ないところといろいろですが、昨今ではオンラインで国内外のワークショップが受講可能です。
インプロオキナワでは、定期的に開催している自主講座のほか、ご依頼をいただいて内容をカスタマイズする対面/出張ワークショップや、オンラインワークショップの実施も承ります。
対象:職場やクラス、各種団体等向け/子ども向け・大人向け・大人子ども混合も可
内容:レクリエーションや親睦、チームビルディングやコミュニケーション研修等
費用:ご依頼される団体の活動形態や規模にもよりますので、ご相談ください
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