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『役になりきる(!?)』 方法 〜「ステータス」という考え方

演劇を始めたばかりで、初めて台本や役をもらった方は「役になりきるにはどうしたらいいんだろう」と悩んだり、「本番では、役になりきって〇〇を演じたい!」と熱い思いを抱いたりするかと思います。

中には、演出から「もっと役になりきって!」と言われて戸惑っている人も、いる…かも。

そんな方のために、「役になりきる」ためのお役立ち情報として「ステータス」という考え方をご紹介したいと思います。

そもそも「役になりきる」とは

人は、自分以外の人間になりかわることはできない…残念ながら

そもそも、なぜタイトルの『役になりきる』を二重カッコにしたのか、ということですが…

昔から、いい演技という意味合いでか「役になりきる」という言葉をよく耳にするんですけれども、精神論っぽくて私はあんまり好きじゃありません。

ま、「役の感情に没頭する」とか、「よりリアルな演技をする」というイメージなんだろうと思うので、そう言いたくなる気持ちはわかりますけどね。

どんなに「なりきってる」ように見えるプロの役者さんだって、何か演じるたびに自分が消えて役が「憑依」しちゃうわけじゃなくて、感情的な場面であっても、ちゃんと冷静な自分があれこれ判断したり、コントロールしたりしているのですね。

「なりきる」って言葉は「一生懸命」という言葉と同じで、気合はだいぶ感じられるんですが、具体性に欠けます。
いい演技をするためには「とにかく一生懸命」ではなく「具体的に何をすればいいか」ということを考えていく必要があります。

本番でいい演技をするための準備を「役作り」といって、これをじゅうぶんやっておくと、自信をもっていただいた役を演じることができると思います。

そのかわり「役作り」を入念に

「役作り」とは、役者さんが、自分の役柄について、演技や扮装(ふんそう=衣装やメイクなど)を工夫することです。

他にも「ハリウッドの俳優が、役作りのために⚪︎キロ減量した」「昔の役者さんは役作りのために歯を抜いた」なんて話も聞いたことがあるかもしれません。

衣装やメイクは、場合によっては自分に決める権限がないかもしれませんし、やたら歯を抜いたり大幅に体重を変えたりするのはあんまり現実的じゃありませんので、このあたりは横に置いておいて、「演技」の方に注目してみます。

まず、台本を読んで作品および自分の役を研究するわけですね。
職業や時代背景によっては、あれこれ調べてみることも必要になるかもしれません。

たとえば、昔々私が蜷川幸雄演出の「近松心中物語」という作品に出演した時はーセリフもない、いわゆる「その他大勢」だったにも関わらずー制作会社が台本と一緒に、舞台となる当時の遊郭を知るための資料を、どーんと送ってきてくださいました。(たしか台本より分厚かったと思います!自分で資料を探す手間が省けました。とっても親切ですね)

それから台本の中身、役の性格や生い立ち、台本の中の人間関係や、役としての目的や思い、といったものを探っていきます。
そしてそれを、動きやセリフに反映させていきます。
この作業は(役にもよりますが)なかなか大仕事なので、ひとくちには書ききれません。


今回は「ステータス」という考え方を通して、台本の中の人間関係や、役を身体的にどう表現するかに焦点をあてていきます。

ステータスとは

ステータスは人と人との間の力関係

ステータス(status)は、社会やある集団における地位や立場のことです。

インプロ(即興演劇)では、このステータスという言葉をよく使います。ステータスが高い、低い、というような言い方をします。

社会的地位ということで言えば、「社長」「政治家」「セレブ(お金持ち)」などはステータスが高そうで、平社員や一般市民はそれにくらべてステータスが低そうです。

ですが現代は、昔に比べて社会的地位と力関係は必ずしもイコールではなく、もう少し複雑です。

昔だったら「家庭内でステータスが高いのはお父さんで低いのがお母さん」とか「学校の先生の方が生徒よりステータスが高い」というのが一般的なイメージでしたが、現代では先生や親より、子供の方がステータスが高い…なんてこともあるかもしれません。

また、並列な関係でもステータスの差は存在します。
ちょっと友達や職場の人間関係を思い出してみてほしいのですが、おそらく、「この人はAさんには強気だけどBさんにはやたら気を遣う」といったことがあると思います。

さらに、何かアクシデントが起きて普段の関係が逆転することがあります。
もし、テレビの水戸黄門を観たことがあれば、話が早いです。「このモンドコロ」を出した瞬間がそれです。

こういったステータスの逆転は、ドラマとしての「見どころ」です。
台本を読む時にはぜひ、それぞれの役との力関係やその変化を気にしてみてください。

ステータスが高い人/低い人の特徴

ではそのステータスを、実際に身体で表現してみましょう。

まず、「社長さん」でも「トップスター」でもいいので、ステータスが高い人を想像して、そのへんを歩き回ってみてください。
普段の自分と何か変わりましたか?

もしあなたが普段からむちゃくちゃステータスが高い人でなければ、おそらく、自然に背筋が伸びたり、胸を張ったり、もしかすると、歩き方もいつもよりゆっくりになったかもしれません。

ステータスが高い人というのは、イコール自信と余裕がある人です。

なので一般的にステータスの高い人の動きは、「背筋が伸びて胸を開いている」「首や手の動きにムダがない」「ゆったりと大股で歩く」「まばたきが少ない」などとされています。

では、ステータスが高い人として「こんにちは」でもなんでも、少し喋ってみてください。どんな話し方になると思いますか?

自信に満ちた声=ボリューム:大きめ、高さ:低め、速さ:ゆっくりめになるかと思います。

この真逆をやると、「とてもステータスが低い人」になります。背中を丸めて小股でせかせか歩き、常にまばたきをしたり身体のどこかを触ったり。息が浅く、声がかん高く早口。

どちらも極端な動きに思えるかもしれませんが、やってみると、たぶんどちらかの方がより自分にしっくりくるかと思います。
私たちは社会生活の中で、周りに対してステータス高め/または低めに生きていて、それが身に染み付いています。

ステータスが高い人と低い人の関わり

ステータスが高い人と、低い人が同じ空間にいたらどうなるか、ちょっと想像してみて下さい。

高い人は自分の好きなように動きますが、低い人は高い人の動線を邪魔しないようにするでしょう。
高い人は、低い人をまっすぐに見ることができますし、遠慮なく近づいていって、肩に触れることができます。
低い人は高い人と目を合わせることができず、まっすぐおへそを向けることも難しいかもしれません。
(ああ、なんか今いじめられっ子といじめっ子の中高生を思い浮かべてしまいました。)

これは実際の人間関係の中では自然に起きることです。キモチ的に、どうしてもそうなってしまうのです。

で、相手と演技をする時にやっかいなのは、普段の関係がついつい演技に影響してしまうことがある、ということです。

昔、劇団の養成所に通っていた頃、卒業公演でギリシャ悲劇をやることになって、男性たちはギリシャ兵の隊長、兵1、兵2、兵3という役でした。隊長はM君だったのですが、普段からとても腰が低くて、だいぶ年下の私にも控えめに上目遣いで話しかけるような人でした。

兵士たちが登場する場面では、隊長を先頭にづかづかと舞台に入ってくるのですが、Mくん、何度やっても兵1のKくん(最年長で普段から態度がでかい)に道を譲ってしまうんですね〜。
演出家には「普段行儀がいいのと、役として行儀がいいのは違うんだぞ!」と怒られてましたっけ。

でもそれくらい、身体って正直なんですよね。

こっそり練習してみよう

まず、私たちの身体には、普段から染みついたクセというものがあるので、役に合わせて身体をコントロールするべく練習をする必要があります。
早口な人がゆっくりしゃべるのは難しいです。
普段背中を丸めて歩く癖のある人が胸を張り続けるのもたいへんです。

でもまあ、このあたりは単純な練習なので、役柄を分析をしながら「これくらいかな?」と繰り返し試して、なんなら録音や録画で確認しながらイメージに近づけてみたらいいと思います。
ちなみに、ステイタスの高低だけが役をかたち造るすべてではありませんので、あくまでも一つの要素として参考にしてくださいね。


めでたく身体がコントロールできるようになったとして、それでミッションコンプリートというわけではありません。

身体と心は繋がっているので、気持ちが抵抗していたらどうしても引きずられます(Mくんみたいに)。
頭ではわかっていても、どうしても身体がついていかないよ〜となるかもしれません。

と、ここで!

はい、満を持して『なりきる』の出番です!
つまり理屈ぬきの「思い込み」です。一生懸命です。

機会を見つけて日常生活の中で、誰かを相手にこっそり練習してみてください。
おススメは、コンビニとかレストランとか、二度と会わない関係の中で試してみることです。
自分の役に合わせてステイタス高く、または低く、相手に接することが…できるでしょうか?

念のため言っておくと、ステータスが高い=必ずしも横柄で嫌なやつではないですからね。
あくまでも先方のご迷惑にならないように。これは自分のココロとの勝負なので。

『なりきる』ためには「殻を破る」ことも必要

理屈抜きに思い込んだり、いつもと違うモードに没頭しようとした時に邪魔になるのが、“自分の殻”というやつです。

恥ずかしかったり、自信がなかったり、勇気が出なかったり。
自意識が過剰になってしまうんですね。

そんな時は、まずそっちをなんとかする必要があるかもしれません。

おまけ:演技以外に応用する

ステータスという概念を理解して、身体をある程度コントロールできたら、日常生活にもいろいろ活かせる場面があります。

たとえば、仕事でプレゼンする時や面接の時、または、誰かに何かをキッパリとお断りしなきゃいけないような時はステータス高めを意識してみる。

相手を威圧したくないとき、フレンドリーに振る舞いたい時は、ちょっと低めを意識してみる。
「おどおどする」ということではないですけど、身体や表情の動きを少し増やしてみると、ちょっと隙のある感じになります。
動かず黙ってじーっと見つめると、相手はすごく威圧感を感じるのですが、時々無意識に、癖で、そうしてしまっている人を見かけます。
コワいヒト〜と思われて、損です。

身体と心は繋がっているので、身体が変われば心にも影響があります。
ぜひ新しい自分をいろいろ試してみてください。



と、ここまで読んでみて「う〜ん、やっぱりひとりではどうにもならないよ!」という方は、ぜひ実際にレッスンを受けてみることをお勧めします。

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投稿者プロフィール

渡辺 奈穂
渡辺 奈穂
1989年より演劇を始め、俳優・演出を経て後進の育成に携わる。指導開始後ほどなくして、演劇体験がプロを目指す者だけでなく受講者の生活・人生を大きく活性化させることを痛感。2020年にオンラインレッスンをスタートし、子どもから大人まで、全国の幅広い年代の受講者へレッスンを届けている。

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