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ものごとに臨機応変に対応するために、インプロバイザーがやっていること

昨今、社会の変化が目まぐるしく、仕事においても日常生活においても、「マニュアル通り」だけでは通用しないようになってきました。

つまり「臨機応変」に対応する力が求められるわけですが、マニュアルを手放したところで何が正解かわからない、どうしたらいいの?と悩む方もいらっしゃるかと思います。

私たちがやっているインプロ(即興演劇)は、台本のないお芝居。つまり、先がどうなるか決まっていないお話を、即興で作っていきます。

常につねに、「臨機応変」の連続です。

仮にマニュアル(=こういう時にはこうしましょう)を決めていたとしても、実際には予想の斜め上をいく出来事が起きたりするので、結局その場で(しかも瞬時に)対応したり、解決したりしなければならなくなります。

そんな即興演劇の世界で、インプロバイザー(即興の演者)たちが日頃どんなスタンスを心がけているのか、少しご紹介します。

「臨機応変に対応するにはどうしたらいいんだろう」と悩んでいる方のヒントになれば幸いです。

ステージの上では…

リラックスして楽しくいる

観客を前にした舞台の上、つまり「本番」は日頃の成果を発揮できる時。インプロバイザーにとっては一番楽しい時間でもあります。

緊張したり、パニックになると動けなくなり、目の前のことをよく見たり、何かを考えたりするのも難しくなりますから、とにかく肩の力を抜いてリラックスしていること。

言うは易しですが、逆になぜ緊張するかというと「失敗したらどうしよう」「うまくできなかったらどうしよう」という心配が大きいということもありますから、インプロのトレーニングでは「たくさん失敗する」「失敗を楽しむ(笑い飛ばす)」なんてことをたくさんやります。

実生活では、洒落にならない失敗というのもありますが、インプロは架空のお話、遊びなのでたいていの失敗はむしろ楽しいもの。やらかしたり、あたふたしたりする自分を「おもしろい」と思えるようになれば、逆に余裕が生まれて自信がついてきます。

舞台の上で失敗を気にせず(たとえ失敗したとしても)、ハッピーでいられる演者を見ると観客は嬉しくなります。お客さんが味方になってくれれば、だいぶんそのあとがやりやすくなります。

思考に埋没せず、五感で情報をキャッチする

演劇は音楽と同じで、立ち止まらずどんどん進んでいきますので、一瞬一瞬その場に意識を向けておくことが大切になります。うっかり自分のアタマの中(思考の中)へ入り込んでしまうと…目の前のことを見逃したり、変化に気づけなくなってしまったりします。

また、相手が言っていることをよく聴くことも大切です。これは言語的な意味だけではなく、声色、ニュアンスも含めてです。
五感で、全身で、その場の状況を“感じとり続ける”ということが、相手との一体感にもつながり、ひいては次に何が起こりそうか、ということをいち早く予感することにもつながります。

とはいえ、次々に入ってくる情報を「全部覚えておかなきゃ!」とガンバって“暗記”しているというわけでもありません。
また「次はどうしよう」と目まぐるしく計算しているわけでもありません。

ストーリーはどんどん先へ進んでいくので、アタマの中であれこれ考えているうちに、目の前の現状は変わっていってしまって、今持っているアイディアは使えなくなってしまうことも多いです。

なので、あれこれ考えを巡らして目の前がお留守にならないよう、一瞬一瞬をしっかりキャッチすることが大切です。

起きたことをポジティブに捉える〜ムリかもよりアリかも

その場でストーリーを作っていくということは、その場の状況を周りの人たち(共演者やお客さん)と共有し、起きたことに乗っかってその先を展開していくということです。

相手役からの提示(=オファーといいます/例:「お母さん」とか「山の上は空気がいいね!」などと話しかけられる)を受け入れ膨らませていくこと(「あらおかえり、早かったね」とか「山岳部に入れてよかった!」とか)を「イエスアンド」と言います。他に、お客さんから何かしらのアイディアをもらうこともあります。
起きたことやアイディアを活かしあって進んでいくと、充実した展開になる確率が高くなります。

ですが、相手からのオファーは自分の予想の範囲を超えることもよくあり、それに乗ったからといって「成功」が保障されているわけでもありません。そこで「このアイディアじゃダメなんじゃないだろうか」とか「その先どうしたらいいんだろう」などと不安が先にたつと、ついつい拒絶したり、曖昧に逃げてしまったりということが起こります。
そうすると、だんだんと場のエネルギーが落ちてきて、にっちもさっちもいかなくなる…なんてこともあります。

同じアイディアでも最初から「ムリ!」と思って受け取るのと「なるほど!それもアリかも」と思って受け取るのでは、だいぶん場のエネルギーとその先の展開が変わってきます。

フォーカスは自分ではなく相手へ

インプロに限らず、演劇(演技)の世界ではよく「自分のためではなく、相手のために芝居をするように」と言ったりします。自分がよく見えるようにではなく、相手がやりやすいように演技をすれば相手がいい演技をしてくれて、相手がいい演技をしてくれれば最終的に自分もいい演技ができるからです。

インプロでは「相手にいい時間を」とか「相手をインスパイアする」と言ったりします。
インスパイアとは、ひらめきや刺激を与えたり、元気つけたり奮い立たせたりすることです。

もちろん、そうした方がまわりまわって自分に返ってくる、ということもありますが、それだけではありません。

自分ばかりに意識が向いていると、やはり自分だけの思考の中に入り込んで周りが見えなくなったり、自意識過剰になって広い視野でもって判断ができなくなったりします。

自分のために自分でわざわざコトを起こすより、相手のピンチを救うためとか、相手をよりステキに見せるための方がモティベーションがあがるし、思い切った行動がとりやすい、という人も多いです。

直感を信じて、未知の方向へ足を踏み出す

予想外のできごとを「なるほど、そうきたか!」と大きく手を広げて受け止めることも大切ですが、受け止めて終わりでは解決になりません。
ここで自分が何かしらの決断をしなければならない、または行動しなければならない、という局面が、インプロの舞台の上でも必ずあります。

そこで、失敗を恐れたり相手の顔色ばかりうかがっていると、思い切った判断や行動ができず、無難なことや、何も現状が変わらないようなことで収めてしまいそうになります。

お芝居はエンターテインメント。よりエキサイティングな興味深いお芝居をお観せしようと思ったら、それではなんとも残念です。

「こっちに行ったら、なんかおもしろそう!」というココロのワクワクセンサーを頼りに、どうなるかわからないけど大胆に一歩、踏み出してみる。その気になって進んでみれば、たいていその先の道も開けてきます。自分でも思いもよらなかったアイディアが突然閃くこともあります。



「世の中には『イエス』と言う傾向のある人と『ノー』と言う傾向のある人がいる。『イエス』と言う人は冒険を手に入れ『ノー』という人は安全を手にいれる〜キース・ジョンストン(Keith Johnstone)」

稽古場では…

ひたらすら遊び、探究する

とはいえ、普段から何もしていなければ、舞台の上でこんなに大胆に行動できるわけはありませんよね。
なにごとも、日常のちいさな積み重ねがあればこそ。

稽古場、つまり普段のトレーニングの中で、インプロバイザーはたくさんの「トライアンドエラー」つまり「失敗する練習」をしています。
また、やってみてどうだったか、自分がどう感じたか、また相手がどう感じたか、分析や、率直なディスカッションも山ほど行います。
そうしながらお客さんたちがどんなことを期待しているか、どうするともっと興味深くおもしろいパフォーマンスができるのか探究します。

その蓄積をもとに、次のステージの上ではさらなる「冒険」にチャレンジします。
稽古場は、安心して思いっきり転ぶことができる、安全な場所なのです。

安全な場所で、ひたすら遊び、探究し、舞台の上で思い切りチャレンジする。
そんなことを繰り返しながら、みんなだんだん咄嗟に何かを選択し、実行することが、自信を持って…または楽しんで…できるようになっていきます。

また、たくさんの違う人たちとやってみる、ということも、とても大きな収穫になります。
ひとりひとり、みんな経験してきたことも発想も違うので、そういうこともあるのか!そういう考えもあるのか!という発見がありますし、また、自分自身の傾向にも気付かされます。

職場や日常生活では?

さて、こうやって培った「即興力」は、仕事の現場や日常にも活きてきます。

たとえば、アクシデントがあった時。
いざ現場に行ったら聞いていた状態とだいぶ違ってて何かが足りない、だとか、何かの事情でスケジュールが大幅に変わってしまい作業が間に合わないかも、だとか。

そんな時に「即興」に慣れていると「もうダメだ〜」と落ち込んだりパニックになったりする代わりに、脳が「別の道」を、しかもよりナイスなアイディアをどんどん探し始めます。
そしてその中から「よし、これでいこう!」と選択し、ポジティブに実行していく、ということができます。

同じ事でも「ダメかも〜」と思いながらやるのと「よし、やるぞ!」とやるのでは結果が違ってきたりするので、このポジティブな姿勢でいられることはだいぶ強みになりますね。

また、プライベートでもお仕事の上でも、相手はしばしば自分の予想を超えたことを言ったりやったりしてくるわけですが、そんな時に「いやいや…」とおよび腰になる代わりに「なるほどいいね!」と積極的に受け止められると相手との関係もよくなりますし、共同作業も生き生きしたものになってきます。
他にも、相手の感触を見ながら、咄嗟によりよい言葉を選んだり、提案をしたり、といった感覚も冴えてくるでしょう。


自分もそんな風に行動できたらな、と思った方はぜひインプロのワークショップを体験してみてください。

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投稿者プロフィール

渡辺 奈穂
渡辺 奈穂
1989年より演劇を始め、俳優・演出を経て後進の育成に携わる。指導開始後ほどなくして、演劇体験がプロを目指す者だけでなく受講者の生活・人生を大きく活性化させることを痛感。2020年にオンラインレッスンをスタートし、子どもから大人まで、全国の幅広い年代の受講者へレッスンを届けている。

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